約60年前に、ランドセルの工房として設立された土屋鞄。ランドセルづくりで培った技術力をベースに、2000年代以降は大人向けのカバンや財布、小物も手掛けており、海外にも展開。今や誰もが認める、日本を代表するレザーブランドのひとつだ。
そんな土屋鞄の店舗には、連日多くのお客さんが訪れる。ブランドの懐の深さを示すように、若い恋人たちに家族連れ、海外の旅行客まで顔ぶれは多種多様。そんなお客さんたちと、それぞれに最適なコミュニケーションを取り製品の魅力を伝えているのが店舗の販売員だ。
「ブランドとお客様の橋渡し役が私たち販売員です。製品の価値をなるべくわかりやすく、魅力的に伝える必要がありますが、とはいえ、こちらが言いたいことを言うのはただの押し付け。あくまでお客様のご希望や価値観に沿いながら、話を広げて、満足いただける提案をしていくことが大切だと考えています」
そう話すのは、日本橋店の小島健志郎さん。以前は著名なハイブランドショップに勤務しており、土屋鞄には2022年4月に入社。前職から接客一筋10年、接客の難しさもやりがいも知り尽くしたプロフェッショナルだ。
小島さんは、土屋鞄に入るまでは革製品を扱う機会が少なく、特別な知識もなかったという。だからこそ入社後、革と触れ合い接客を重ねるにつれ、発見と驚きがあった。
「まず、革に詳しいお客様がとにかく多いんです。当たり前のことかもしれませんが、たとえば以前務めていたアパレルショップでは布に詳しいお客様にお会いしたことはありませんでした。素材自体に話したくなる魅力があるなんて、革の世界は面白いなと感じましたね」
製品の“愛で方”も、一般のファッションアイテムと違った。
「ご自身でお手入れされているお客様が、本当に嬉しそうに愛用品を見せていただけるんですよね。 元々どんな色だったかわからないくらいエイジングも進んでいて、使い続けることで価値が生まれる嗜好品っていいなって」
それまでいた世界は、流行り廃りの激しいファッション業界。買った時が最も価値があり、古びていくことはイコール価値がなくなることだった。それに対して、時間をかけることが豊かな楽しみにつながる革の世界は、小島さんにとって新鮮に映ったという。
日々革製品に囲まれ、自ら土屋鞄のカバンや財布を愛用しているうちに、小島さん自身が熱烈なレザーファン・土屋鞄ファンになっていった。
「現場の人間が、一番製品に触れていると思うんですよね。すると、革のことも製品のことも分かってくるし、愛着も深まっていく。プライベートでも使っているから、エイジングも含めた製品の魅力は誰よりも知っている自信がある。自分が好きだからこそ、その魅力をお客様に伝えられるんだと思います」
小島さんは、自身を魅了する土屋鞄の製品の共通点として、「普遍性」を挙げる。
「革製品の醍醐味であるエイジングを楽しむには、長く使えることが大前提。私たちの製品は、シンプルで飽きのこないデザインや職人の高い技術力がもたらす強い耐久性など、長く愛されるにふさわしい品質だと自負しています」
ちなみに、小島さんが一番好きな土屋鞄の製品は、革独特の色気が香るウルバーノシリーズ。
「エイジングが豊かで、色が深まっていく過程がたまらなく好きですね」
そう語る小島さんの顔は、正真正銘、レザーファンのそれだ。
好きになればなるほど、“相手”について知りたくなるのが人間の性。革の知識を増やすことで、お客さんとのコミュニケーションももっと円滑になる。そう考えた小島さんは、レザーソムリエの資格取得に向けて動き出した。
「もともと土屋鞄はレザーソムリエの取得を促進していたこともあり、社内に認定者も複数いました。ここ日本橋店でも教材があって、折に触れて参考にしていましたが、資格取得に向けて本腰を入れて一か月ほど読み込みました。特に、なめしの工程は改めて体系的に学べることができて、仕事にも役立っています」
現場で得た感覚と新たな知識を合致させていった試験勉強を経て、2022年12月、レザーソムリエBasic(初級)の資格試験に見事合格した小島さん。その結果に、嬉しさと同時に身が引き締まる思いがしたと明かす。
「レザーソムリエを名乗るということは、革の専門家であるということ。その肩書に恥じない立ち居振る舞いをしなければいけない。たとえば、接客の際は知識をひけらかす必要はない。でも、必要に応じてアウトプットできるようにしておくことが大事だと思います。質問に販売員が答えられなかったり、口ごもったりすると、不安になりますよね。まして、革には熱心なファンが多い。そんなお客様たちに認められ、信頼いただける存在であるために、レザーソムリエの資格は自信になっています」
レザーソムリエという資格を手にした今、小島さんは土屋鞄というブランド全体を見据え、販売員としてのあるべき姿を考えている。
「発信や製品の見せ方は、時代に合わせて変わっていくでしょう。でも、根底にある“土屋鞄らしさ”は変わりません。ランドセルづくりで培った確かな技術力や暮らしに色を添えるアイテムなど、私たちの持つ普遍的な価値を直接お客様に伝えていくのが私たち販売員の使命だと考えています」
その使命を果たしていく上で、ベースとなる革の正しい知識は不可欠。実際に、小島さんは業界未経験の後輩に対して、革や製法に関する知識を積極的に伝えるようにしている。販売員一人ひとりが革のプロフェッショナルとしての知識と品格を備えることが、会社としての信頼感醸成にもつながるからだ。
「ランドセルにはじまり、先輩たちが長い時間をかけて積み上げてきた土屋鞄のブランドがある。それを私たちの振る舞いひとつで損なうわけにはいかない。お客様と接する販売員だからこそ、正しい知識や行動が強く求められるのではないでしょうか」
土屋鞄という唯一無二のブランドをつくりだしているのは、スタッフたちが持つ自社と革への深い愛情。そして、徹底したプロ意識にあるようだ。
日本革類卸売事業協同組合 主催 レザーソムリエ合格者限定 工場見学会
・10月11日(水)㈱リーガルコーポレーション新潟工場見学会(紳士靴の基礎知識)
・11月15日(水)墨田タンナー工場見学会(皮~革へ、羊・山羊・豚)
※いずれも合格者に直接メールでご案内をいたします。
浅草エーラウンド『革とものづくりの祭典』 https://a-round.info/
・10月20日(金)~22日(日) 台東区北部・奥浅草エリア一帯
オーラウンド『靴と皮革の祭典』 https://o-round-osaka.com/
・11月4日(土)~5日(日) 大阪市浪速区・西成区各所
東京レザーフェア https://tlf.jp/
・12月7日(水)~8日(木) 都立産業貿易センター 台東館
第6回 日本皮革製品マイスター認定証授与式 http://www.jlia.or.jp/enjoy/blog/
一般社団法人 日本皮革産業連合会(JLIA)は、2023年7月12日付けで、レザーソムリエ講師も務められてる長谷川博司さん(株式会社革包司博庵)をJAPAN LEATHER GOODS MEISTER(小物部門)として認定。第6回 日本皮革製品マイスター認定証授与式が9月5日(火)、東京・上野で行われました。
http://www.jlia.or.jp/enjoy/blog/
一般社団法人 日本皮革産業連合会(JLIA) 主催「マイスターによる皮革講座」
・10月22日(水)
https://www.jlia.or.jp/index.php?pg=event.detail&get=2089
日本皮革製品メンテナンス協会発「靴磨き選手権大会」
https://www.jlia.or.jp/index.php?pg=news_release.detail&get=2092
https://jlpma.net/championship/
※チケットは完売しております。
リネアペッレー国際皮革製品見本市ー(ミラノ)
・9月19日(火)~21日(木)