▲ 消費者向けTLAリーフレット
革を取り扱うプロを目指すレザーソムリエ。資格取得に際して始点となるのは、革素材の特性を知ることだ。講師のひとりである川北芳弘さんは、「Thinking Leather Action(TLA)」の座長として、革がサステナブルな素材であることを発信し続けている。
環境問題への関心が高まり、サステナブルな素材や製品、サービスが注目されている昨今。食肉の副産物である皮革、その革を活用した革製品もまたサステナブルといえるが、「革製品は動物の命を奪ってつくられている」といった誤解を招く表現を見かけることがしばしばある。
このような状況下において、皮革・革製品のサステナビリティを積極的に発信しているのが、「Thinking Leather Action(以下TLA)」だ。
TLAは、2021年に発足した日本皮革産業連合会のワーキンググループ。座長を務める川北芳弘さんは、天然皮革製造卸会社・川善商店の代表取締役であり、日本革類卸売事業協同組合の理事で、レザーソムリエの皮革講座では講師も務めている。
「TLAの発足前は、一企業として皮革・革製品のサステナビリティを発信していました。けれど、革に関する正しい知識を広めるためには、一社だけで周知をしていても追いつかないという実感があり、日本皮革産業連合会に相談を持ち掛け、TLAとして活動していくことになりました」
TLAの調査によると、皮革・革製品に対する誤解が急速に広まったのはここ5年。川北さんはその要因を、「YouTubeなどの普及によって、精査されてない情報が拡散するようになったためではないでしょうか」と分析している。
皮革・革製品に対する認識のずれとしては、皮革・革製品のために動物の命を奪っている、皮革・革製品の使用をやめればアニマルライツ・アニマルウェルフェアに貢献できる、皮革・革製品の使用は森林破壊に結びついている、ヴィーガンレザーなどの代替素材と比べ環境負荷が高い、といった例が挙げられる。川北さんは、これらの誤解を次のように解く。
「ポイントは、革が食肉の副産物であることです。人が動物から命をいただいてお肉を食べ続ける限り、皮は出続けます。人類は古来より食肉の副産物である皮を利用し、アップサイクル素材として使ってきました。このように考えると、革製品の使用が動物愛護や森林破壊と直接関係していないことがわかるはずです」
もし皮革・革製品の使用をやめると、例えば現在革製品になっている牛の皮は、1年間に日本で約100万頭分、世界で約1億6500万頭分にのぼる。その皮の廃棄・焼却をする場合、相当量のCO2が排出される。「つまり、革製品の使用は脱炭素にも貢献しているといえます」と、川北さんは語る。
革製品のためだけに、動物の命をいただくことは
ありません。
革製品は、使うだけで脱炭素。使うのをやめると
CO2が増える可能性さえあります。
革製品は丈夫で長持ち。だから地球にやさしい。
革は世界最古のアップサイクル素材。
だからサステナブル。
しかし、皮革・革製品が食肉の副産物であるという事実は、世の中に広く知られていない。
20代~60代の男女1030人を対象にしたTLAの調査によれば、「皮革・革製品のために動物を殺している」と誤解している人は24パーセント、また「皮革・革製品が食肉の副産物である」ことを知らない人は62パーセントを占めている。
誤った認識が広まった弊害は、業界内でも起こっている。
「革製品を扱うショップの販売員の方たちから話を聞くと、お客様から『革製品は環境に良くないのでしょう?』といった質問をされることが少なからずあるそうです。正しい知識がないために、自分の仕事について自信を失ってしまう方も一定数いました」
そこで川北さんは、広告代理店に勤務していた経験を活かし、「難しすぎず、簡単すぎず、ポイントだけがわかるチューニング」で情報発信を行う方針を固めた。
「皮革業界の川上から川下までを意識しつつ、いま世の中で起こっていることやトレンドを捉え、どこにチューニングして情報を発信するかがTLAの活動の肝です」
広い視野で社会を見つめ、膨大な情報を精査して削ぎ落し、本当に大切なことのみを伝える。世の中に刺さるクリエイティブの構築は、川北さん率いるTLAだからこそ成し得るものだ。
情報発信のフェーズとしては、皮革業界に関わる人々が働きやすく、売りやすい環境をつくるため、業界内における知識の共有を最優先事項とした。
「業界内で働く方たちの知識にばらつきがあったため、まずはインナーブランディングから取り組み始めました。マニュアルを作成して情報を共有し、全国のタンナーやメーカーなど向けに勉強会を行いました。その結果、皆が同じ知識を持ち、同じ尺度で革について説明できるようになってきています。勉強会に参加したメンバーからは『自社の事業が世の中に役立っているとわかり自信がついた』といった感想をいただきました」
第二のフェーズとして行っているのは、対外的な情報発信だ。勉強会の範囲を取引先の百貨店・小売店などにまで広げるほか、オフィシャルサイト、動画、リーフレットなどで、一般消費者に向けてもわかりやすく情報を発信している。また、経営者層に向けては新聞広告を打つなど、ターゲットごとにさまざまなメディアを駆使しているのも特徴だ。
このような取り組みの結果、徐々に正しい知識が伝播していることを実感しているという川北さん。「クリエイティブの質を落とさず、今後も情報発信を継続していきたいです」と、気を引き締める。
革に関する正しい知識をさらに浸透させるため、ユニークなプランも考案している。
「ひとつ考えているのは、皮革・革製品とお肉のコラボレーションです。革が食肉の副産物であることを意識してもらうために、お肉を食べたら革製品が当たる、あるいは革製品を買ったらお肉が当たるでもいい。キャンペーンであればフラットな形で世の中に知ってもらえるし、メディアに取り上げていただける機会も増えるのではないかと考えています」
業界内外に向けて情報発信を行っているTLA。同様に、革に関する正しい知識を習得できる資格制度がレザーソムリエだ。
「業界内の方であれば、革の製造工程や正しい知識を身につけることで、深い部分までイメージしながら取引先に説明することができるようになり、自分が売るものに関して自信を持てるようになります。一般の方は、革製品を購入するときやクラフトで革を使う際により良いものが選べるようになり、革のある暮らしがより楽しくなるはずです」
TLAの発信している情報を収集し、レザーソムリエで革についてより深く学ぶ。この両軸で、レザーライフをさらに充実させてみてはいかがだろうか。